Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『共に生きる』

 世の中には色々な事柄に対して「与える人」と「与えられる人」があると思う。通常リハビリの世界では、療法士が「与える人」で、患者側が「与えられる人」と言われている。四半世紀の昔、私が療法士として勤務し始めた頃は少なくともそう思っていた。でも、ある患者さんに出会って少しずつ変化してきたように思う。その患者さん(Fさん)の病名は、ALS(筋委縮性側索硬化症)であり、約17年前に発症された。

 当初は在宅生活をされていたものの、介護量の増大と胃ろう造設・気管切開のため入院された。多くの場合は、病院での継続した治療・看護となるが、Fさんと妻の強い希望で在宅生活を開始された。生活動作は全介助であるため多くのサービスを導入し、本人と家族の支援を行うこととなった。リハビリにおいても全身状態の維持と精神面へのフォロー目的で訪問を開始した。

 自宅へ帰ってしばらくは、Fさん・妻共に希望がかなえられて喜んでいたが、変化の少ない毎日の流れの中で、気持ちが少しずつ不安定になってきた。そこで、スタッフ間で話し合い、近所への外出を行うこととし、車いすなど屋外へ出るための調整を行い外出ができた。Fさんは喜び、気持ちも前向きになる。外へ出る事の楽しみも増え、同時に介護している妻との関係もより良いものとなった。

 これに弾みをつけて、次は一泊旅行を希望される。一泊旅行となると短時間の外出に比べ、調整しなければならないことが多くある。旅館や移動車の準備、人工呼吸器のバッテリーなど。特に問題となったのは急変を想定しての対応であった。ありがたいことに訪問担当医師の同行が可能となり、宿泊地近くの医療機関に事前に連絡を取り、開通直後の「しまなみ海道」と四国を旅行できた。

 その後も毎年1回の一泊旅行と頻回の外出を繰り返されている。ちょっとした外出程度であれば家族で行えるようになり、Fさんと妻は「外出や旅行を計画したり、その日を待ったりするのも楽しいのよ」と次の計画を練っている。平成11年よりその数は8回を数えており、息子の結婚式参加や孫との旅行も行えた。

 Fさんは口からの食事ができない状態なのに、旅行の時は食事会場へ必ず顔を出す。そして一家の長としてその場を仕切るのである。食事内容や飲み物について妻に指示を出す。そして酔っぱらった私たちの話を愛おしそうに聞いているのである。また、移動用のワゴン車には助手席(運転手の横)に座る。介護の面からみると、2列目の座席が良いと思うのだが、景色を見るために譲らない。そして旅行日は必ず晴れる、「晴れ男」であった。

 初めの頃、私は同行してFさんの介護を手伝うのが仕事だと考えていた。しかし、続けて同行するにつれて、自分自身も楽しめること、Fさんの表情、妻の元気な声を聞くことが喜びとなっていった。知らず知らずのうちにFさんとその家族に楽しみと貴重な経験を与えてもらい、私自身「与える人」だけでなく「与えられる人」にもなっていることに気付いた。これは私だけでなく、Fさんに関わる多くのスタッフが感じたに違いなく、そのことの一つひとつが実績となり、そのノウハウが後世にも生かされていくと思っている。

 残念なことにそのFさんは、今年この世を旅立たれた。悔しい気持ちと17年間もよく頑張りましたねという気持ちが交差している。私たちも「命の尊さ」「人間の強さ」「人によって人は生かされている」というものを感じながら、これからも『共に生きる』ということを考えていきたい。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。